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2015.05.08

 記者の目 いま、中国・ウイグル自治区で 隅俊之・外信部(前上海支局) 

カテゴリ 新疆ウイグル出典 毎日新聞 5月8日 朝刊 
記事の概要
昨夏、中国新疆ウイグル自治区のある村を訪ねた。イスラム教徒のウイグル族によるとされる「テロ事件」の容疑者の家族を取材するためだった。

家の門をたたくと、年老いた父親とみられる男性が姿を見せ、記者だと名乗ると「よく来た」と招き入れてくれた。

だが、すぐに表情は一変し、黙り込んだ。

離れたところで地元当局者2人が見ているのに気づいたからだった。私は30分ほどの厳しい尋問を受け、村を離れるしかなかった。

2013年10月、ウイグル族が乗ったとみられる車が北京の天安門近くに突入し、40人以上が死傷する事件が起きた。

これ以降、新疆ウイグル自治区や雲南省で爆発物などを使った無差別殺傷事件が相次いだ。

ウイグル族が関わったとされる事件はこれまで、警察署などの政府系機関を襲うケースが多かった。

だが、最近は無差別に市民を巻き込む傾向が強くなっている。

 ◇過激な思想、徐々に浸透

中国当局は一連の事件を「組織的なテロ」と断定し、新疆ウイグル自治区の分離・独立を主張する組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の関与や指示があると強調。

昨年5月から自治区を中心にテロ撲滅作戦を展開し、取り締まりをさらに強化してきた。

昨年5月末には約7000人の民衆を集め、テロに加担したとされる55人に対する見せしめの「公開裁判」まで開いている。

これまで、私を含む「西側メディア」は、中国当局の言う「テロ」という言葉に懐疑的だった。

新疆ウイグル自治区で起きる問題には、ウイグル族への抑圧に対する抵抗運動の側面があり、今もその要素が多分にあるからだ。

中国当局の発表を検証するために容疑者などの周辺取材を試みても、取材を制限して裏付けさえ取らせないことも疑問に拍車をかけている。

ただ、一般市民を無差別に巻き込み暴力に訴える行為は明らかにテロであり、人権や民主的な制度を求める抵抗運動の延長とは言えなくなってくる。

中国政府はテロ撲滅作戦を始めて以降、容疑者らがETIMなどのテロ組織による聖戦を呼びかける動画を見て、事件を計画したと主張してきた。

実際、新疆ウイグル自治区で取材すると、ネットを通じてそうした動画を見たことがあると答えるウイグル族の人々に何度か出会った。

また、検証できないが、ETIMの旗が容疑者の関係先で見つかったと当局が主張するケースもある。

国際テロ組織に詳しい外交筋は「監視が厳しい中国国内ほど(テロ組織の)活動が難しい地域はない」として、組織的なテロだとする中国当局の主張には懐疑的だ。

ただ、ガソリンなどを入手すれば爆発物も簡単に作れるため、「動画などで感化された一匹オオカミ型のテロが起きていることは否めない」と指摘する。

私も、組織的で直接的な関与はないにせよ、暴力による過激な考えが新疆ウイグル自治区の中に忍び込み始めていると感じる。

 ◇宗教・経済的差別、置き去りを懸念

だが、新疆ウイグル自治区の問題は、もともとは中国政府によるウイグル族への抑圧が根本にある。

今、自治区では女性がスカーフで頭部や顔を覆うことが禁止されたり、イスラム教徒にとって大切なラマダン(断食月)の禁止が一部では伝えられたりするなど、尊重されるべき宗教的な習慣までが否定されるケースが目立つ。

敬虔(けいけん)なイスラム教徒が多い自治区南部で出会ったウイグル族の男性は「道ばたで多数で話しているだけで解散するよう要求され、抵抗すれば射殺される」と訴えていた。

テロ撲滅の大合唱の中で、「ウイグル族はテロリストだ」などという間違った考えが広まり、宗教・経済的な差別という本来の問題が忘れ去られていく。

私はそのことを強く懸念している。

これまでに出会った多くのウイグル族の人々が、こう言っていたことが忘れられない。「どこかに逃れたい。だが、パスポートもなく、行く場所もない」

自治区の将来について、私は悲観的だ。中国政府は現在の少数民族政策を見直すべきだと思うが、市民が無差別に巻き込まれるようなテロがまた起きれば、中国政府の姿勢が変わることは望めない。

一方で、現地を取材すると、中国政府に対するウイグル族の反発は強まっていると感じることが多く、暴力に訴える過激な思想がさらに浸透する恐れがある。

そうなってしまえば、来た道を戻ることさえできなくなる。この問題はいま、大きな岐路にさしかかっているのではないかと思う
コメント
ウイグル自治区から中国各地に「出稼ぎ」に行くものが多いと聞いた。分散して工場などの寮に入り、差別を受けながら働いているという。

逆に、漢族がウイグル自治区に移り住んで、商売(商店)や旅行社などのビジネスで働いている。

ウイグルの言葉を禁じ、北京語の使用を強制する。ウイグルの宗教を無視する政策を実行し、学校で中国共産党の歴史を学ぶ。

結局、追い詰められたウイグル族の人は、中国各地の工場に出稼ぎに出るしか生きる方法がなくなる。

これが中国伝統の併呑政策である。周辺国に移住することで、経済や産業や文化さえも中国のものに置き換える。

もし中国の併呑政策に反対や抗議をすれば、国家に刃向かう危険分子として処罰される。

ウイグルの反乱には、そんな事情があると聞いた。




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