最新記事へリンク

所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamiura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

What's new

日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2012.01.10

 米海兵隊ダーウィン駐留:5年前、豪が提案 同盟象徴の地 

カテゴリ米軍再編出典 毎日新聞 1月10日 朝刊 
記事の概要
米国のオバマ大統領は昨年11月、米外交・安全保障政策について「アジア太平洋地域を最優先にする」と述べ、「アジア回帰」への転換を表明した。

同盟国オーストラリアの北部ダーウィンに海兵隊を駐留させる計画はその最大のポイントで、背景にはアフガニスタンとイラクの二つの戦争に力を注ぐあまり、アジア太平洋での中国の軍事・経済的な台頭を招いたという反省がある。

だが、米海兵隊駐留は豪州側が06年末に提案していたことが、毎日新聞の取材で分かった。

中国を念頭にした米国の歴史的な戦略転換は、新たなグレートゲームの時代の幕開けになるのだろうか。

ブッシュ米前政権時代の06年12月。ワシントンで開かれた米豪閣僚級会合の後、豪州のダウナー外相、ネルソン国防相がチェイニー副大統領からホワイトハウスでの夕食に招かれた。

室内には電飾鮮やかなクリスマスツリーが飾られ、丸焼きの七面鳥を載せたテーブルを挟んで、話題は各方面に飛んだ。

そして、ダウナー氏がおもむろに切り出した。「海兵隊をダーウィンに駐留させてはどうか」

提案理由について、豪側の2人は取材に「米軍は昔からアジア太平洋地域の安定維持に欠かせない存在だからだ」と説明した。

ダウナー氏は「米軍が日本国内で基地削減を迫られる中、全体として米軍兵力の削減になってはならない」とも述べた。

日米両政府は既に在日米軍の再編構想で合意していた。

だが、提案は棚上げになった。米軍がアフガンとイラクで身動きできなくなったからだ。

昨年5月、アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害を受け、「駐留計画は一気に現実味を帯び始めた」(外交筋)という。

オバマ大統領は昨年11月、米豪相互安保条約60年を機に豪州を訪問。北部準州の州都ダーウィンに足を運んだ。

大統領は豪空軍基地の格納庫で豪軍兵士ら約2000人を前に「アジア回帰」への演説を行い、第二次大戦中の出来事に触れた。

「私たちの同盟は、ここダーウィンで生まれた。(旧日本軍の)攻撃を受けた時にだ」。大統領の声がこだまする格納庫は静まりかえっていた。

1942年2月、開戦から破竹の勢いで南下した日本軍は、米豪など連合国軍の拠点ダーウィンを空爆した。

豪州での「真珠湾攻撃」と呼ばれる。「アイ・シャル・リターン(私は必ず戻る)」の言葉で知られる当時のマッカーサー米陸軍元帥はフィリピンから豪州に退却。

連合国軍は元帥の指揮下、ダーウィンから反攻に転じた。ダーウィンは米豪同盟にとって象徴的な場所である。

ダーウィンには陸海空の軍事基地がある。東西冷戦期、この空軍基地から米軍のB52爆撃機が発進、ソ連極東の警戒に当たった。

そして今、米国がこの地から見据える相手は中国に取って代わった。

 ◇米、南から太平洋にらみ

米国がオーストラリアと合意した米海兵隊のダーウィン駐留は、海洋進出を加速させる中国を封じ込める戦略的意図がある。

中国国防省は駐留を「冷戦思考の表れ」(耿雁生報道官)と批判した。

中国軍の羅援少将は昨年末、「中国が大国になるには(日本からインドネシアに延びる)第1列島線を突き進まなければならない」と発言した。

実際、中国艦船は「第1列島線」を突破する形で沖縄本島と宮古島の間を抜け、西太平洋上で軍事演習を繰り返す。

米軍は北半球のアジア地域に兵力7万人を展開するが、南半球は手薄だ。

中国の新型弾道ミサイルが沖縄を射程にとらえる中、「第2列島線」の南端の延長線上にあるダーウィンへの米海兵隊駐留について、外交筋はこう解説する。「太平洋全域を南からにらみ、シーレーン(海上輸送路)防衛に向けた決意を中国に示すのに最も妥当な場所だ」

     ×  ×

ダーウィンから飛行機で1時間半の距離に、人口100万の小国、東ティモールがある。ティモール海には水深3000メートルの海溝があり、インド洋と太平洋をつなぐ米原潜の航路になっている。「米国にとって重要なシーレーンの一つ。この近辺で中国の影響力を強めさせるわけにはいかない」(外交筋)

内部告発サイト「ウィキリークス」は昨年、中国が07年に東ティモール政府にレーダー施設の無償建設を申し出たとする米公電を暴露した。

公電に名前が挙がったジョゼ・ルイス・グテレス副首相は取材に、事実を否定しながらも「(ティモール海が)米艦船の重要な航路であることは確かだ」と語った。

中国は、02年に独立した東ティモールへの影響力を強めてきた。首都ディリから車で1時間のヘラ海軍基地を訪れると、2隻の大型艦船が停泊していた。沿岸警備用だ。脇には小型の木造船が2隻。「インドネシアの密漁船だ。

中国から買った艦船がなければ東ティモールの海は守れない」。国防軍のライク参謀総長は満足そうに語った。

中国はこれまでに大統領府や外務省の庁舎を無償で建設。今は、反射ガラスがまばゆい国防省の庁舎も建てている。

4年前には発電所と送電網の建設事業を中国企業が落札した。

豪フリンダース大学のデビッド・パーマー上級講師(米国学)は「中国の『経済的占領』が進む恐れがある」と指摘した。

ただし、中国の活動に軍事的要素は希薄だ。東ティモールのジュリオ・トマス・ピントゥ国防相によると、昨年3月、東ティモールを訪れた中国国防省の高官に対し、軍事交流のための中国海軍の寄港を提案したが、中国側は「検討する」の言葉を残したまま、返答しなかったという。

米国を刺激したくなかったのかもしれない。

一方、米側は海兵隊が昨年6月、東ティモール海軍と5日間の海賊取り締まりなどの合同訓練を実施。関与を強めている。

だが、米中の硬軟を織り交ぜたせめぎ合いが続く東ティモールでは、国連の平和維持部隊が今年末で撤退する。

グテレス副首相の顧問ディオニジオ・バボ・ソアレス氏は「私たちはどの大国とも軍事的、経済的に付き合わなければならない。脆弱(ぜいじゃく)な存在だからだ」と話した。

     ×  ×

今月5日、オバマ米大統領は新国防戦略を発表し、中国を念頭に「アジア太平洋における米軍のプレゼンス(存在)を強化する」と改めて明言した。

米海兵隊が駐留予定の豪州北部準州のポール・ヘンダーソン首相は「兵士の増加やインフラ建設は地元経済に良い効果をもたらす」と歓迎するが、豪州にとっては微妙な内実がある。

豪州は輸出入とも中国が最大の貿易相手国。現在の好調な景気は中国頼みの側面が強く、「駐留」により中国を刺激したくないのが本音だ。

豪州のダウナー元外相は「中国を敵視すれば、本当の敵になる」と語り、むしろ中国が国際ルールの中で台頭することが本意だとも強調した。

ダーウィンの市長執務室に、寄港した外国艦船が贈った帽子が飾られている。その数37個。多くは米艦船からだが、中国軍からのものもある。

グレアム・ソーヤー市長は「米軍は第二次大戦中にダーウィンを守ってくれた恩人。結びつきは深い。だが中国との関係も(19世紀の豪)ゴールドラッシュの時代から続く重要なパートナーだ」と話す。

ダーウィンには軍基地に加え五つの演習場がある。米国にとり、日本や韓国以外に基地を受け入れてくれる国がない中、ダーウィンは「打ち出の小づち」でもある。

だが、チャールズ・ダーウィン大学のアラン・パウエル教授は「ミドルパワーの豪州が生き残るには、世界とどうバランスよく付き合っていくかを考えるしかない」と指摘した。

米中がせめぎ合う新時代。豪ニューイングランド大のカルビン・マックイーン講師は「世界は(米中にとり盤上で攻防を繰り広げる)チェス盤のようなものなのだ」と表現した。
コメント
アジア太平洋重視を打ち出したアメリカの新戦略で、グアムは西太平洋全域をにらみ、ダーウィンは東南アジアやインド洋を睨む最前線の位置にある。

日本本土にある米軍基地は朝鮮半島に対しては有効だが、東南アジアに向いては遠すぎることになってしまう。

ただし沖縄の米軍基地は東シナ海を睨む最前線の位置にある。しかし中国海軍とパワーゲームをするのは米海兵隊ではなく、米空軍や海軍が主体的に担うことを忘れてはいけない。

また南シナ海を睨むにはフィリピンなどに米海軍基地を配置することが必要だ。これからアメリカ海軍がフィリピン海軍を育成するのか、あるいはアメリカ軍の艦艇を新たな軍港に配備するかはこれからである。

囲碁の勝負ではないが、今の中国とアメリカのミリタリー・パワーゲームは、まずは要所を要所を押さえる序盤の段階と思う。

それが済んで、次ぎのパワーゲームは支配地を拡大する陣取り合戦へと進んでいく。しかしそれは今ではない。今の中国海軍が米海軍に対抗するにはあまりにも貧弱だからである。

しかしかつての米ソ冷戦と違い、近い将来、アメリカ軍がアジアで中国軍よりも優位な位置を押さえても、それは中国軍への包囲・封鎖戦略ではないから、中国海軍の艦艇がダーウィンの米軍軍港に寄港(友好親善)するような光景も見られると思う。

このあたりの対中国軍との関係が理解できなければ、「米中戦争すれば・・・」というような空想的な戦争論に陥ってしまう。

アメリカの総合的な海軍力は、軽空母1隻をやっと浮かべるほどの中国海軍とはまったく比較にならない。さらに日本のような同盟国がアメリカ軍と肩を組んでいる。

中国の軽空母出現に大騒ぎしている今の日本の報道を見ると、98年8月に北朝鮮が打ち上げたテポドン・ミサイル発射で大騒ぎをした当時の光景と重なってくる。

明日(当時)にでも、北朝鮮から発射されたテポドンミサイルが、雨あられと東京の空に降ってくると報じた大騒ぎである。

いつの時代にも、メディアの軍事知識の無知は危険である。
BACK