最新記事へリンク

所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamiura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

What's new

日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2012.01.05

 「二正面戦略」を変更 アジア重視の1正面作戦に 米が戦略見直し 

カテゴリ米軍再編出典 読売新聞 1月5日 電子版 
記事の概要
米国のオバマ大統領とパネッタ国防長官は5日、国防総省で記者会見し、国防費削減に伴う国防戦略の見直し結果を発表する。

米紙によると、地上戦力の縮小により、「二正面戦略」の展開能力を維持しないと明示する一方、中国の脅威などをにらんで、アジア重視の戦力配置を打ち出す見通しだ。

財政赤字の膨張を受け、大統領は昨年夏、向こう10年間で総額4500億ドル(約34兆5000億円)規模の国防費を削減する方針を表明。

議会からは一層の削減要求が出ており、大統領は国防総省に対し、米国と同盟国の安全保障を維持しながら、米軍の効率的運用を図るよう国防戦略の抜本的見直しを指示していた。

ニューヨーク・タイムズ紙などによると、大統領は「二正面戦略」放棄の代わりに、一つの大規模紛争に対処し勝利する一方、「第二の敵」が戦争を起こさないように封じ込めを図るという新方針を表明する。

イラク戦争終結とアフガニスタン駐留米軍の撤収などを受けて、今後、陸軍と海兵隊の人員が大幅削減されるのに伴う措置だ。
コメント
今日の朝刊各紙を読むと、新1正面戦略の位置づけが「対中国戦略」では一致していても、従来の”2正面戦略”や”1,5戦略”に関してはバラバラな説明であったのが気になった。

私が軍事の勉強を始めた35年前頃、まだ米ソ冷戦が激しかった時代のことだが、アメリカの世界戦略は”2,5戦略”と位置づけられていた。

すなわちアメリカ軍とその同盟軍は、ヨーロッパで起こるソ連軍とソ連同盟軍の全面戦争と、東アジアで起こるソ連軍との全面戦争の2正面に備えて前方展開戦略体制をとり、その他の地域戦闘(これは朝鮮半島)を0,5と位置づけ、総合的に2,5戦略の戦力を同盟軍と構築するものだった。

ところがアメリカは2,5戦略では想定していなかったベトナム戦争に重い負担を強いられた。2,5戦略ではベトナム戦争に十分に機能できなかった苦い経験を残した。

その後、ヨーロッパ方面を1つの正面として、朝鮮半島を0,5とする1,5戦略を唱えた時もあった。中東ではパーレビ国王が支配する親米イラン軍や、サウジなどの親米国家が産油国の中枢を押さえていたからである。

まだ中東の軍事危機を想定する必要がなかった。(当時の石油は経済戦略として使われていた)

一方、中国の軍事力はアメリカが無視できる程度の国内治安用の軍事力でしかなかったからだ。

80年代になると、イランでイスラム革命が起こり、アメリカ大使館を占領する反米国家イランが出現した。さらにイラン・イラク戦争で中東が急速に不安化して、アメリカの軍事力も中東に関与する必要に迫られた。

しかしアメリカはイラク(フセイン政権に武器援助をする程度の関与)を助ける程度しか中東に介入していない。

さらに89年12月に米ソ冷戦が終結し、ヨーロッパ正面の軍事緊張が急激に下がっていた。普通なら軍事的な緊張緩和は和平で安定した国際社会となり、歓迎されるべきものだが、軍事的な緊張を栄養源とするアメリカ軍にとっては心から冷戦勝利を喜べるものではなかった。

そして91年の湾岸戦争が始まった。アメリカ軍はアメリカの裏側にあるサウジなどの中東に、大規模な軍事力を緊急機動・展開する能力をテストに成功した。

しかしアメリカはヨーロッパ(NATO)で主導権を得るために、あえて1正面軍をヨーロッパに残し、朝鮮半島の0,5戦略を維持して、中東には機動的な戦力で柔軟に対処することにしたのである。

この間にも、いろいろな新たな変化が世界の軍事情勢に起きている。その最大なものはアメリカ海軍が海上(大洋)で戦闘する相手を失ったことである。

地球上にアメリカ海軍と戦える海軍力を持った国などないからだ。

そこでアメリカ海軍は「フロム・ザ・シー(海から陸へ)」戦略を唱え、洋上の艦船から沿海部の軍事施設を攻撃する新戦略を採用した。

そして01年9月の同時多発テロが発生した。アメリカと同盟軍のアフガン戦争が始まり、03年にはイラク戦争に拡大していった。

実はアフガンとイラクの対テロ戦争は、アメリカ軍の1,5戦略は別の柔軟戦略(非正面、非対称)で対応するとしていた。特にイラクに大規模地上軍を派遣したことは、アメリカ軍も1,5戦略の想定外のことだった。

ゲーツ前国防長官がイラク戦争当時、4年ごとの国防戦略見直し((QDR)の記者会見で、朝鮮半島有事の際の米軍対応を質問され「米軍のどこにそんな余分な戦力がある。従来の戦略は非効率で無駄が多い」と語ったことがある。

これを受けて、米韓合同の「作戦計画5029」が策定された。

だから作戦計画5029は米軍の機動性と柔軟性を重視して、北朝鮮軍を正面(0,5)と想定しない非対称の作戦計画なのである。

同時に今回の新戦略では、中東に関して、当面はイランの動きを注視するが、イランを米軍の正面と位置づけないで、経済制裁や柔軟戦略で対処するという表明でもある。

そのためにも、沖縄の海兵隊を朝鮮半島対処から、アジアや中東に向けたグアムやオーストラリアに移転させる必要に迫られる。

あくまで中国軍の大洋進出に対処するのは海兵隊ではなく、米軍の陸海空軍が中国軍に正面から対処することが必要なのである。

この辺りの軍事知識が正しく理解されていないと、在沖海兵隊が中国軍と真正面で対峙するというおかしな話になってしまう。

また、アメリカ海軍が対中国軍に対して「ジョイント・エアー・シー・バトル戦略」(統合空海合同戦略)を主張したのは、あくまで米陸軍が中国に攻め入る意思がないことを中国に説明している。

だから米軍では、これから陸軍の軽量化が行われ、高速機動力や長距離展開能力が求められ、陸軍でも海兵隊並みの柔軟性を高めていくだろう。

かつて米海軍が海で戦う敵を失ったように、米陸軍も従来の重装備では陸上で戦う相手を失ったことに気が付いた。

しかしここで絶対に忘れてはいけないのは、アメリカと中国は互いに戦略核ミサイルで相手国を核攻撃ができる関係にあることだ。

朝鮮半島や台湾問題でも、中国とアメリカが直接戦争を起こせば、互いの戦略核ミサイルの導火線に火を着けることになる。お互いに、それだけは絶対に防ぎたいと願うはずだ。

かつて冷戦時代の米ソ両国が、そのように互いに強く自制していた。だからアフリカや中・南米で米ソの代理戦争が起きたという説もある。

ともあれ、アメリカ軍の1正面作戦とその他の柔軟戦略で、アメリカ軍の国防費は大幅に減少が可能になる。

また、沖縄の海兵隊問題(普天間基地や辺野古基地建設)に関しても、米側の大幅な変更が可能になる。

このアメリカの新戦略は、北朝鮮の金正日独裁政権が崩壊した時に発表されると思っていたが、もはやアメリカは待ちきれずに、金正日の死亡だけで踏み切ったということでもあろう。

当然ながら自衛隊も変わる。これから自衛隊がどのように変わるか。面白い展開を期待したい。
BACK