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所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamiura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

Re:メールにお返事

日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2010.06.19

 自衛隊に軍事(特別)裁判所は無理と思います 

届いたメール
いつも楽しみにHP訪問してます。

6/17メール
>日本が普通の戦争が出来る国になるためには、憲法9条を変える以外に、軍事裁判所の設置を認めるように改憲する必要があります。

いつも変な質問ばかりしてまして申し訳ありません。

これは軍法会議の事でしょうか?それとも軍事裁判所というまた別の形のものなのでしょうか?

私が見てる田岡俊次さんが出演するCS放送の番組の中で田岡さんはいつも軍法会議設置を否定されています。

理由は簡単で身内に甘い体質が有り、どうしても身内に通しでは甘い判決になるからだそうです。

例として挙げられた話として、満州事変の時朝鮮の国境を越えて滿洲に進軍した(しようとした?)朝鮮人軍人がいたそうです。

その行動を当時の新聞は煽り立てて大きな問題に。しかしその朝鮮人軍人を必死に庇ったのが上司?に当たる東条英機だったそうです。

もう一つの話は、米軍によるえひめ丸沈没事件。この軍事裁判の中で米軍人各自が規則や命令に従ったまでと主張。

確かにその通りでもあり、結局一体誰の責任なのかがハッキリしない責任の所在が曖昧な状況に陥ったそうです。

だから田岡さんは軍法会議ではなく外部の人が裁く一般の人と同じ裁判の場で裁くべきだというお考えのようです。

神浦さんのいう検索結果

犯罪捜査官ネイビーファイル はこの様な弊害の心配のないものなのでしょうか?

軍事裁判の参考になるとは言いませんが、雰囲気を知る事が出来た「犯罪捜査官ネイビーファイル(JAG) 」を足かけ15年掛けて見ていました。これはアメリカで10シーズン10年間放送された米軍法務官が活躍するドラマです。
「ドラマ通りではないが、軍人の姿を一番反映している」と米軍人も評価していたそうです。

ドラマでは仲間同士である法務官が検察と弁護士に別れて事件を担当します。面白いと思ったシーンは、日常会話の雑談の中で担当する被告の刑罰ついて軽い感じで“交渉”している場面。

例えば、一方が「懲役2年と不名誉除隊」と言えば、一方が無罪を主張したり、「軽減した刑期で手を打とう」と主張する。「それには応じられない。最初の提案がベスト」とまた返したりとこんな会話のシーンを本当によく見かけました。

これは司法取引?なのか知りませんが、日本では有り得ないだろうと思いつつ見ていました。また軍人の将来を考慮したり、年金を受け取るか否か、不名誉除隊などの場面もよく見かけました。

個人的には現在裁判員制度が始まった日本では、一般国民の日常生活には馴染みもなく時には相手国も存在し軍事常識や専門的な事柄などを知らない突然くじで選ばれたような裁判員がまともに裁く事が出来るのか?と言う素朴な疑問があります。だから神浦さんの軍事裁判所の設置は必要なのだろうと思います。

でも、身内を庇う場になってしまうのではという心配もあります。

第一、現在の自衛隊にJAGの様な権限と能力のある法務組織、法務官が存在しているのか?という素朴な疑問があったりします。

もう少し軍事裁判所ついて解説して戴ける機会があれば嬉しいです。

 長文失礼。
コメント
確かに軍人のための特別裁判所が出来れば、軍人に対する判決は「身内びいき」で、部外者が見れば”軽くなった”ように見えると思います。

軍人が戦場で従うルールは、交戦規定(ROC)や国際法で、一般刑法ではなくなります。

以前、何度かお話しましたが、自衛隊のサマワ派遣(イラク)では、間違って自衛隊員が農民を誤射した際の対処が問題になりました。

サマワの自衛隊宿営地に向かって農民らしきものが歩いて接近してきます。陣地(宿営地)の監視塔からでは、肩に携帯式対戦車ロケット砲(RPG7)を担いでいるように視認できます。

「近づくな」と何度か現地語で警告をしますが、相手は一向に接近をやめません。しかたなく、警備の自衛隊員がROEに基づいて、この農民らしい者を射殺します。

しかしRPG7と思っていたのは農具で、自衛隊員の警告はこの農民が難聴のために聞こえなかったことが判明します。

日本はイラク暫定政府と地位協定を結んでいましたから、この射殺した自衛官は日本の刑法によって裁かれることになります。罪名は「業務上過失致死罪」です。

サマワ現地に派遣されている警務隊員のよって隊員の身柄が拘束され、取り調べを受けた後、派遣部隊の地方検察庁に送検され、一般の裁判を受けることになります。

このようなことが起きる可能性は極めて高いと思われました。そこで考えた対策は、海外で起きた業務上過失死地罪は日本の刑法では扱わないという規定の活用です。

ですからサマワで起きた射殺事件は、殺人事件として立証されないことになります。すなわち無罪です。

事前にこの説明を聞いたサマワ派遣隊員は、安心したような表情を見せたと聞いています。

このほかにも、軍事作戦では一般法では違法になる行為がいくつも考えられます。軍の活動は特別法廷(軍法会議)でしか裁けないのも事実です。

このあたりの考え方は田岡さんと異なると思います。

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しかし日本では軍事(特別)裁判所を憲法76条で否定しています。ですから私は日本は戦争が出来ないと言っているだけで、憲法改正を考えているだけではありません。

また、憲法9条を変えて、自衛隊の存在を肯定し、自衛のために外国軍(米軍)と共同作戦(集団的自衛権の行使)を行えるようにするだけでは不十分で、軍事法廷を可能にする76条も変更する必要があるという説明ですだけです。

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一昨日、ある週刊誌の記者の方から電話を頂き、ロシア海軍がソマリア沖で捕らえた海賊を、わずかな水と食糧だけを与えて、小型の船で海上に放置した事件のことで聞かれました。

「これは処刑だと思うがどうか」
「私も処刑の一種と思う」
「もし海自の護衛艦が捕らえた海賊をゴムボートに乗せて海上に放置すれば罪に問えるか」
「・・・・・・・」「仲間が助けに来ると思ったと言えば・・・・」
「協定を結んだケニアが海賊の受け取りを拒否すれば日本に連行するのか」
「・・・・・・・」「なにぶん、日本は初めてで十分に法的な議論が行われていない」
「いつまで海保の職員(海上保安官)は護衛艦に同乗するのか」
「今のところ、この警備活動に海保がソマリア沖に艦船を出す動きはない」
「北朝鮮が崩壊した際にも、北朝鮮の武装船取締に海上保安官が護衛艦に同乗することになるか」
「・・・・」「そのような訓練は行われていない」
「警察官が軍艦に同乗することは異常ではないのか」
「戦車や装甲車の中に警官1人を乗せ、市街地をパトロールしている軍隊など聞いたことがありません。

自衛隊が縛られているのは、適当な法律がないというのも原因です。自衛隊の国際活動が多くなると、自衛隊を取り巻く法律全般を見直す必要があると思います。

軍事特別裁判所だけの問題ではなくなりました、また有事法制で済む話でもなくなりました。
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