銃声の脇を若い女性が下着姿で現れた
ホテルで目撃した若く美しい白人女性
| カンボジアのカンポットといっても、この地名を今も覚えている日本人はもう少ないだろう。日本の自衛隊が1992年にカンボジアにPKO派遣(UNTAC)を行ったとき、その駐屯場所は国道3号線の中継地にあるタケオだった。プノンペンから始まったその3号線の最終地が港町カンポットだったのだ。カンボジア南部の小さな地方都市だが、フランス軍外人部隊で編成されたUNTACも大規模な分遣隊を置いて、不安定なこの一帯の治安を守っていた。じつはこのカンポットにも自衛隊は分遣隊を派遣していた。そして治安はプノンペンやタケオよりカンポットのほうがはるかに悪かった。そのカンポットを取材したときのことである、まさに信じられない光景を私は目撃した。 私はベッドから床に飛び降りて伏せた。そして中央にあるテーブルの上に置いてあるカメラを手にした。フイルムをモノクロ用のTRY-X(暗いところでも撮影可)に入れ替え、ベッド脇のサイドランプを消して、匍匐しながらドアをあけて静かに廊下に出た。廊下の外はホテルの裏庭で、その裏庭の塀のそとに狭い道路があった。銃声はその狭い裏道から聞こえたようだった。距離にして約20メートルである。私の姿はブリーフのパンツに半そでのTシャツであった。そしてカメラを片手にしたまま、床に伏せて裏道の様子を窺がっていた。信じられない光景を見たのはその時である。ホテルの私のとなりの部屋のドアが元気よく開いて、白いパンツ1枚を着けただけの若い女性が廊下に出てきた。それも長い金髪で白人の若い女性で、ゆわゆる知的なとびきりの美人だった。その女性は伏せることなく、廊下に立って外の様子を見ているのだ。そのすぐそばの廊下の床に、私がカメラを手にして伏せていることに全く気が付いていない。その距離はわずか数メートルである。明らかに暗闇の中に向かい、銃声の主を探そうと目を凝らしてしているのだ。その様子は度胸があるのか、銃声に慣れているのか、それとも戦地に不慣れなのか、私にはわからかった。 しかし私は突然現れた若い裸(パンツははいていた)の女性に驚いた。でも「あのー、伏せたほうがいいですよ」という言葉は出てこなかった。ただボーと見つめていると、やがて彼女も私の存在に気が付いた。彼女は私を不信そうに見つめた。そこで私は無言のまま手元のカメラを持ち上げて示した。彼女は私のカメラを見てから表情を変えないで、そのまま無表情で元の部屋に入っていった。ただそれだけのことだが、それからホテルの周辺では何も起こらなかった。 翌日、裏庭の駐車場で泊り客の車の番をしている男に、昨夜の銃声騒ぎの経緯を聞いてみた。「あれはホテルの前の飲み屋で、カンボジア政府軍の兵士とフランス外人部隊の兵士が、売春婦を奪い合って喧嘩になり、負けた政府軍の兵士が野犬に銃を撃ったんだ」と説明してくれた。「若い白人女性が、このホテルに泊まっているのか?」と訊ねたら、「フランスのテレビ局の女性が取材で泊まっている」と、にっこり笑って教えてくれた。昨夜のあの下着姿の女性は、フランスのテレビ局の女性スタッフだったのだ。それにしても美しい人だった。ただそれだけの話だが、フランス人女性というのは何かあれば、下着姿で平気で部屋の外にでるのだろうか。今も時々その疑問にとりつかれ、つい思い出し笑いをすることがある。 |