「重信房子」の写真を撮ってくれ


日本の公安当局には、日本赤軍の最高幹部の写真がなかった


11月8日(水)に大阪の高槻市で、日本赤軍最高幹部の重信房子が逮捕された。新幹線で大阪から東京に護送される途中の重信房子の顔を見て驚いた。いつも見慣れた手配書の顔写真と、今の55歳の顔つきがあまりにも違っていたからだ。これでは手配書の写真は、捜査にとってマイナスの作用しかしなかったのではないか。ふとそう考えたときに、私は10年前に体験した奇妙な出来事を思い出した。

 「ベッカー高原にいる重信房子のインタビューをとってきてくれ。取材費(航空運賃・宿泊費・食費・現地交通費・現地コーデネーター費)は言い値で出す。条件は必ず本人である証に、重信の写真を撮ってくること。たとえ重信房子のインタビューに失敗しても、その責任は一切問わない」と、ある人物から言われた。その記事のインタビューは、私がどこの出版社に持ち込んでも自由だという。すなわち、そのインタビュー記事が売れれば、その出版社からも取材費や原稿料がでるから、手にする金額はかなり大きなものになる。数百万円という金額を手にすることも可能である。しかし、あまりにもうますぎる話である。

 私が最初に気にかかったのは、取材に失敗しても責任を問わないという気前よさである。そんな出版社なんて過去に1社もなかった。仮に取材に失敗すれば、その責任をとらされて、後払いの取材費を払ってくれなかったり、先払いの場合は現地で別の取材を行って穴埋めをさせられた。それがフリーの現実である。次に、どこの出版社に持ち込んでもいいというのが気にかかった。それは別のいい言い方をすれば、日本赤軍や重信房子が喜びそうな出版社と私が話をつけて、インタビューをやってくれというようなものである。それが出来るのが、あんた(私)だよという意味だからだ。私の信用度を利用する行為なのである。

 私は慎重にその話の出所を探った。すると、元はある警察の公安と関係が深い人物とわかった。私はこのうまい話の正体を知ったので、こんな取材は危険すぎると率直に断った。今になって思えば、警察はどうしても重信房子の最近の写真が欲しかったのだ。昨日見た重信房子の55歳の顔と、手配書にある20歳代の写真を見比べて、警察が私を利用しようとした気持ちがわかった。当時の私は、イスラエルなど中東に出かける機会も多かった。現地で日本の警察関係者の話を聞いたこともあった。彼らはまず第一にレバノンの日本赤軍の話に最大の興味を持っているも知った。私はイスラエルをめぐるパレスチナやアラブの動向に最大の関心があった。日本赤軍のことなどどうでもよかった。しかし頻繁に中東に通う私に、公安筋は興味をもったのかもしれない。

 フリーのジャーナリストになれば、このような意外な取材を頼まれることがある。そのような場合、相手にいいように利用されないために、自分の仕事は自分で決めることが肝心である。私がそのインタビューを断って間もなく、知り合い(新人)の一人の日本人フリージャーナリストがレバノンに飛んだ。噂では彼は日本の有名出版社から、重信房子のインタビュー記事を託されたという。結局、彼はその仕事は失敗したようだ。それからどこにも重信房子のインタビュー記事や写真は掲載されなかった。新人なら取材費は後払いで、原稿料は成功報酬の世界では、彼は最初に話を持ってきた人物から、レバノン往復の航空券とわずかのお金をもらっただけである。日本からレバノンを往復して、その人物は私の信頼を確実に失った。
(写真は新幹線で護送中の重信房子(55)