森北出版 『 地雷撲滅をめざす技術 』
下井 信浩 著
人道的地雷探知・除去の現状
世界に7000万個埋設された未処理の地雷を考える
2002年6月発売 定価 1500円+(税)
数年後、再び、その地を訪れると、多くの人々が地雷で足を吹き飛ばしていた。和平が実現し、難民の多くがタイの難民キャンプから村に帰ってきたからだ。その地雷が積んであった小屋の場所に、別の小屋が建って手術室に変わっていた。わずかに消毒の臭いで医療用の施設とわかる。こんどは地雷の代わりに、人の背ほどの長さの木の机が、小屋の中央にひとつ置いてある。それが手術台である。食事をする机でないとわかるのは、体を縛りつける紐が取り付けてあったからだ。テーブルにはビニールシート(日本でいうテーブルクロス)がひかれ、ところどころに血痕が残っていた。その机の上に、場違いなような手術用の照明器具があった。さらにその上には、蚊を防ぐための蚊帳が垂れ下がっていた。手術中に蚊に刺されるのを防ぐためである。壁には人工呼吸器のようなゴムでできた萎んだ風船が壁にぶら下がっている。もし地雷を踏めば、この小屋に担ぎ込まれ、麻酔もされないまま、足を切断するのである。白衣をつけていない普段着の女性(ガイドが年齢は50歳ぐらいだとが言うが、私には老婆に見えた)が、この地区の医者だと名乗った。若い頃にプノンペンで医学を学んだと紹介した。私には普通の農婦に見えた。これが私と「生きている地雷」が出会ったきっかけである。(写真は1992年に私が撮影した手術小屋の内部。手術といっても、行なわれるは地雷を踏んだ足の切断だけである。数分前に地雷(対戦車)で吹き飛ばされた死体(乗合トラックの乗客)の写真もあるが、地面の血も乾いておらず残酷すぎて掲載できない。) カンボジアから日本に帰って、地雷処理のことを調べた。義足で地雷の犠牲者を支援する。医薬品を送る。住民に地雷の危険を教える。地雷禁止の国際世論を高める。そんな活動に日本人の貢献は素晴らしい。しかし直接の地雷処理に関しては、英国、フランス、ドイツなどと比べようがない。まったく何もしていないのと同じである。(個人で地雷処理に行く人はいる) 正直言って、私は日本の地雷処理の研究を馬鹿にしていた。文部科学省が地雷研究の助成金を出すといっても、生きた地雷探知の研究と言うより、それを口実に別の研究のためにしていると疑っていた。日本で行なっている地雷探知の研究が、現地の地雷探知にとても活用できるとは思えなかったからだ。何千万円もするようなハイテク・ロボットなど、現地の厳しい自然環境や、地雷埋設地の状況を考えると、使い物にならないことは明白だった。 現地では、もっぱら人力が頼りである。まず地面の突起物や罠線など周囲をよく見る。次は音である。地面を叩いて音の変化を聞く。変化に気づけば、次に地面を掘る。異物(破片や石)が出てくるか、地雷が出てくるか。もし地雷がでれば、丁寧に掘り起こしヒューズを外す。カンボジアで除去された地雷の大半はこうした方法で行なわれた。防護ヘルメットに防爆服を着け、最新式の金属探知機を使うのは、外国から視察や取材がきた場合のお芝居である。地雷処理にお金がかかることを訴えるためだ。安価な木製やプラスチック製地雷に金属探知機は反応しない。 そのような現状を日本人は認識しているのだろうか。私がこの本を薦めるのは、地上でやっている地面を這いまわるような地雷除去と、天の上で雲に乗ってやっているようなハイテク・地雷探知の研究の間を、この本が少しでも近づけられると確信したからだ。雲の上でやている人は、地面近くに降りてきて欲しい。地面に這いつくばっている人は立ち上がって欲しい。そのような現地と研究者の交流がなければ、日本の地雷探知の研究は真の研究とはいえない。本当は莫大な利益を生む医療機器の開発のため。あるいは、地表面を探知して地下鉱脈を発見する技術開発のため。それとも新しいロボット移動システムを開発するため。地雷処理が技術者に狙われている。そんな疑心暗鬼も生まれてくる。 しかしこの本の著者である下井さんと仲間の研究者は、本気でハイテクが地雷探知に活用できないか真剣に研究をしている。その姿勢に大きな期待が持てる。だから私は推薦する気になったった。こんな過激な推薦は著者や出版社に迷惑かもしれないが、日本が本当に人道的な地雷処理をやるなら、この本がその出発点になって欲しいと願っている。 この文責はすべて私にあります。下井さんとは会ったことも、お話したこともありません。本当に勝手に推薦です。下井さん、ご迷惑をかけたらごめんなさい。でもいい本でした。ありがとうございます。(2002年6月26日) |