二見文庫 『 総 力 戦 』
近未来におこる世界戦争の戦慄を英空軍の元士官が書いた戦争シナリオ
イスラエルに生物兵器(細菌)が散布された。
2001年9月発売 定価 952円+(税)
しかし別の仕事が一段落したあるとき、この翻訳原稿の途中の1枚に何気なく目を通してみた。そこはちょうどイスラエルの戦車部隊が、イスラム圏(あえて名前をいいません)の国の対戦車部隊と交戦するシーンだった。メルカバ戦車が味方の多連装ロケットや攻撃ヘリの援護を受けながら、砂漠の丘に陣取る敵を攻め込んでいくシーンだ。それでも砂丘の上からは、多連装ロケットや攻撃ヘリの砲撃から生き残った対戦車ミサイルが次々と発射される。メルカバは黒煙を吹き上げ次々と破壊される。まるで自分がその砂丘にいて、目の前の戦闘を双眼鏡で覗いているような感覚になった。その翌日からである、私は書斎をきれいに片付けて、机の上に詳細な世界地図を用意して用語のチャックにとりかかった。 チェックには5日間で終わった。とにかく次々と展開するストリーが面白く、一気に仕事がはかどったからだ。この軍事小説にはミステリーの要素もあるので、詳しく中身を説明できないが、軍事の専門家なら共通の認識をしている場所が何箇所もでてきた。やはり英国もあの戦闘機の弱点を、このように考えていたのかというようにである。オフィシャルな場所ではちょっと遠慮して話せぬことも、このような軍事小説の場を借りれば簡単に演じさせることができる。そんな作者の快感にニヤリとする場面もあった。 最近は大規模な戦争がない。しかし各国の軍人たちは、次の戦争を想定しながら戦略や戦術を研究している。だがそれを使うことがないまま、自分たちは退役して、次の世代の軍人に次の近未来の戦争研究をゆだねることになる。そんなフラストレーションからなのか知らないが、退役した各国の軍人が描いた近未来の戦争小説がおもしろい。以前、やはり米陸軍で在韓米軍として勤務した元戦車大隊長(中佐)ジョン・アルタンが書いた、「朝鮮半島炎上(上)(下)」 二見文庫刊がおもしろかった。この本で戦場情報をリンク化されたM1A1戦車の戦闘能力に驚いた。ちょうど無線機を積んだ警察のパトカーと、無線機を搭載しないパトカーほどの違いがある。陸上自衛隊はこれから情報をリンク化した新戦車やAH−64D ロングボウを開発する。 今や、軍事の専門化が描いた戦争小説が、もっとも近未来の戦争の様相を表現しているといえる。この本はそんな生の軍事情報を与える1冊でになる。 (2001年 8月22日) |