所長ご挨拶
2月 2012年
第142回
この文章は私が連載中の航空専門誌 月刊「Jウィング」誌 3月号(現在発売中)に寄稿したものです。記事のタイトルは「米軍が打ち出した新戦略『1正面とα』とは何か」です。今月は編集部の許可を頂いて、「所長ご挨拶」に代えて、この記事を転載します。皆さんの参考になると思います。(神浦)
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昨年末の12月19日、北朝鮮の金正日総書記死亡という衝撃的なニュースが世界を駆けめぐった。その半月後の新年5日、オバマ大統領は米国防総省で記者会見し、米国の世界戦略を見直した新国防戦略を発表した。
それは従来の2正面作戦を改め、1正面とその他の地域紛争に柔軟に対処するという「1正面+アルファー」戦略だった。従来の言い方では1,5正面となるが、あえて0,5正面の地域を特定しないで、米軍はいかなる地域紛争にも対処できる柔軟で機動性に富んだ戦力を整えるという意味だった。
そしてアメリカがその1正面として最も重視したのは、言うまでもなく急速に軍事力を拡大させる中国軍で、その地域がアジア太平洋という訳である。
アメリカは米ソ冷戦が終わった1990年頃より、中東と朝鮮半島で同時に起こる二つの大規模戦争に対処できるように2正面戦略で備えていた。
しかしイラクのフセイン政権が崩壊し、反米イランも核兵器開発を嫌う国際社会の経済制裁で孤立を深めている。そしてアジアで最後の反米独裁者の金正日も死亡した。
また01年9月に起きた米国同時多発テロから始まったアフガン・イラク戦争では、米軍は2正面戦略では予測しなかった戦場で深刻な兵員不足を経験した。
アメリカは金正日死亡を機会に、北朝鮮やイランに対して、もはや米国の二正面に位置づける危険性はなく、米軍の高速機動力と遠距離展開能力で柔軟に対処できる脅威と判断を下したようだ。
ここでいう米軍の高速機動力とは、米本土から遠い中東やアジア地域であっても、大量の航空機を使って、数日間で航空戦力や地上戦力の大部隊を移動できる能力である。
兵員輸送には民間の旅客機が動員され、戦闘機や攻撃機などの空中機動には、世界各地に配備された空中給油機が投入される。
また、米軍の遠距離展開能力を高めるため、紛争が起こる可能性が高い地域に、あらかじめ兵器、弾薬、燃料、食糧、医薬品などを貯蔵する事前集積施設(あるいは船)が設けられる。
さらに有事に備え、米軍の機動と展開を効率よく行うために、普段(平時)から情報収集・通信システムの構築・その地域の同盟軍と共同訓練などの調整を行う米軍司令部(平時は司令部要員のみ)が必要とされた。
すでに世界中を見渡しても、アメリカの巨大な空軍や海軍に対抗できる軍事力を持った軍事大国も軍事同盟もない。
その米空軍と米海軍は、主敵を陸上の敵戦力に移してジョイント・エアー・シー・バトル(空海統合打撃)戦略に進化させた。これは従来の米海軍のフロム・ザ・シー(海から陸へ)戦略を、さらに米空軍の打撃力と統合させたものである。
こうして、いろいろと組み合わせて柔軟性に富んだ新戦略で、アメリカ軍は陸軍を中心に軽量化が図られ、空・海軍も重複する互いの戦力を削減させれば、これから10年間で国防費を5000億ドル程度が節約できると試算している。
アメリカ経済が重い財政負担から回復するには、イラクやアフガン戦争で肥大した軍事費の大幅削減しかないのである。
同時に、オバマ大統領が今年の大統領選挙で勝つためには、一刻も早く非効率な2正面戦略に決別し、膨大な国防費を削って一般経済の活性化に振り分けるしかない。
となればアメリカの新戦略に関連し、日本も防衛態勢を見直し、再構築する必要性に迫られてくる。
そこでアメリカが日本に求めるのは、在日米軍の駐留なき日米安保体制と読む。
在日米軍は陸海空軍司令部を残して日本から撤退(横須賀の第7艦隊を除く)し、日本に極東有事のための事前集積施設を求め、自衛隊と米軍の共同訓練の機会を増やし、日米が兵器や弾薬の相互運用性を高めることを要望する。
さらに平時では、日本の米軍基地や事前集積施設の警備を自衛隊が担当し、有事には米軍が効率よく展開できるような体制を整えることが必要になる。
まさにこれが米軍再編の根幹で、その新戦略をアメリカは中国の軍事力拡張をテコに行なうという。
ここで気が付くのは、中国はアメリカのこの新戦略が怖くて、瀕死の北朝鮮を緊急援助で延命させ、軍事危機を高めて米軍を朝鮮半島にクギ着けにしたのではないか。アメリカの新戦略は、そのことへの決別の意味も込められている。
(この文章はJウィング誌の依頼で執筆したものです。Jウィング編集部に無断で記事の転載や引用を禁じます)
つづく
2月2日
著書紹介
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「面白いほどよくわかる 世界の軍隊と兵器」 05年1月30日 発売 日本文芸社刊 1400円(税別) この本を私の著書と呼ぶことはできない。大部分は軍事ジャーナリストの芦川 淳さんと、軍事フォト・ジャーナリストの菊池雅之さんが書いた本である。二人とも、将来は日本を代表する軍事通になる素質を持っている人である。 この本で私の担当は、監修と第7章の「新しい日本の防衛政策」を書いた。私としては高校生レベルの軍事入門書として読んで頂きたいと考えていた。しかし意外なことだが、若い新聞記者やテレビ関係の報道ディレクターが読んでいた。私のところに取材に来る前に、この本を読んできましたと話す人が多くいた。今までは、軍事とは関係のないところに生き、仕事柄、初めて軍事の世界に触れる人には都合のいい本だったようだ。 出版社に聞けば、やはり売れているようで、早々と半年で軍事本では珍しい重版になった。ともすれば私たちは軍事の専門家として、高度な内容の本を書きたがる傾向がある。社会に自分を認めて欲しいという欲求があるからだと思う。しかし世の中が求めているのは、確かな基礎知識に基づいた初級クラスの軍事解説本も忘れてはいけないと気が付いた。 これから軍事を勉強してみたいと興味を持った方にお勧めしたい1冊である。 |
| 『戦争の科学』(監修) 03年9月10日 発売 主婦の友社刊 3000円 (税別) 5月のある日、主婦の友社の編集者が訪ねてきて、「この本を翻訳して、日本でも出版したいと思います。ぜひ協力してください」と話した。原題は『SCIENCE GOES TO WAR』である。すでに下訳ができていて、読んでみると戦争というより兵器の歴史書だった。まずは日本語訳の間違いを訂正するために原書と突合せながら読んでみた。するとこの和訳が実に上手い。いやむしろ上手すぎると思った。言葉を訂正するどころか、逆に、言葉の使い方に感心しながら読んだ。翻訳はまったく問題がなかった。ところが原書には、今の時代では必須のRMA(軍事革命)の記述がなかった。そこで、「この本のタイトルでRMAの項目がなければ欠陥品になります」と編集者に話した。そこで最後の解説の部分として、RMAを書き加えることになった。それを私が担当することになった。 「高校生にわかるように書きます」と言って、もっともわかり易いRMAの解説を書いた。それから原書にはないイラストを友人の長谷川正治氏を紹介した。ぜひとも図説のイラストが必要と思ったからだ。これで8月末に完成した。訳者の茂木健さんに脱帽した。 |
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| 「北朝鮮消滅―金王朝崩壊の衝撃、到来する破局」 03年3月1日 発売 イースト・プレス社刊 1500円(税別) 北朝鮮という国を軍事的な視点で見ると、今までは異常な体制支配で隠された部分から、真の姿が浮かび上がってきた。なぜアメリカは北朝鮮を軍事攻撃できないのか。韓国の太陽政策はなぜ生まれたのか。日本と北朝鮮の国交正常化はなぜ進展しないのか。 そもそも北朝鮮の軍事力とはどうなのか。テポドンやノドンが日本に飛来する可能性はあるのか。そして、北朝鮮をめぐる中国やロシアの対応に隠された真意はどこにあるのか。 イラク戦争でフセイン独裁体制が米英の軍事力で倒された今こそ、この本が解き明かす北朝鮮の真実が近未来を予測します。 この本は1500円で、2003年3月1日が発行日です。 |
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| 「北朝鮮「対日潜入工作」」 共著 別冊宝島宝島 038 宝島社刊 1200円(税別) 私が担当したのは、「生物・化学兵器の原料流出のみを警戒せよ!」です。何だか変なタイトルですが、もう北朝鮮の兵器は脅威ではない。エンジンのかからない戦車、飛ばない戦闘機(飛ばせないパイロット)、潜航せきない潜水艦の数を数えて怖がっててもしかたがない。しかし生物・化学兵器だけは怖い。これに対する警戒は必要と書いたら、このようなタイトルになりました。 原稿を書いたのが02年の7月、本が出たのが8月、そして9月から小泉訪朝と拉致事件被害者の帰国と、日本で北朝鮮関連のことで大騒動になりました。そのためか、何度かこの本が増刷され、こんど宝島文庫にもなるそうです。 北朝鮮は怖くなければ北朝鮮ではない。怖い北朝鮮が大好きという方には、この本は絶対のお勧めです。金正日の危険度を知る上では面白い本です。 |
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「裸の自衛隊」 神浦元彰 監修 宝島文庫社 ¥533(税別) 歴史的な名著として話題になった自衛隊本。ベストセラーの初版から9年たっての文庫本なのに、初版〔文庫〕で10万部を刷ったという驚異の本。この「裸の自衛隊〔文庫〕」では、記事中以外に、「INTRODUCTIN」と「あとがき」を担当しています。他の著名な執筆者の鋭い取材や分析には、軍事の専門家でない方が、むしろ自衛隊を正確に見ていると脱帽しました。自衛隊の本当の姿を知りたい人にはお勧めです。現職や元自衛官には圧倒的な人気でしたが、防衛庁高官や自衛隊の偉さんたちにはヒンシュクをかいました。 |
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「北朝鮮最後の謀略」 神浦元彰 著 二見書房 ¥825(税別) 神浦所長が最初に挑戦した「軍事小説」。本当はこれで直木賞を狙っていたが、候補どころか話題にもなりませんでした。〔もちろん冗談〕 小説の話しの内容は、ロシアの犯罪組織から核爆弾を密かに買った北朝鮮の指導者が、横須賀港に寄港している米原子力空母の船底に核爆弾を仕掛け、関東一帯を「チェルノブイリにする」という計画が発覚。それを阻止すべき自衛隊の特殊部隊が投入された。北朝鮮軍工作員指揮官の許少佐の謀略に翻弄される日本。その間にも、核爆弾は改装された貨物船で東京湾に運ばれ、水中から原子力空母の船底にセットされた。(裏話・この小説はアメリカの高官が、「北朝鮮が1〜2発の核爆弾を持っていても、1万発以上の核弾頭を持っているアメリカの脅威にはならない」と言った事に頭にきて書いたのがもともとの動機です) |
| 「北朝鮮「最終戦争」」 神浦元彰 著 二見文庫 ¥495(税別) 北朝鮮がテポドンを発射実験して、日本政府やマスコミのあまりの動揺ぶりに「ビビルな日本、北朝鮮は怖くない」と、科学的な軍事分析してみせた本がこれ。内容はノンフィクションですが、軍事常識や理論を勉強するには最適の本です。各所に具体例を挙げながら、理論的な説明をしておきました。この本は一部の朝鮮半島の専門家には高い評価をして頂きましたが、「北朝鮮が攻めてくる」と危機感を煽ってなんぼの人には敵視されました。しかし北朝鮮がいくら全体主義の国でも、国民の大多数が飢えているのに、大きな戦争を始める余裕はないでしょう。(裏話・この本で言いたいのは、本当に怖いのは北朝鮮ではなく、その背後にいる中国で、その将来の日中関係によっては、深刻な事態になると警告をしたかった。新たな冷戦を生まないために、中国と日本と米国が軍事対立をしないことが大事) |
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「アジア有事 七つの戦争」 神浦元彰 他(共著) 二見書房 \1748(税別) 「何か面白い本を書こうよ」と、軍事評論家の野木恵一さんと話していたら、これからのアジアの10年間を、軍事情勢から分析し予測してみようと企画したのがこの本。そしていつもすごい記事を書くなと関心をしていた、河津幸英〔軍事研究誌 論説委員〕さんと、航空ジャーナリストの石川潤一さんにも加わって頂いて、4人の共著で出版しました。 本当は4人で酒でも飲みながら、ワイワイガヤガヤとやりながら、進行していこうとぐらいに考えていました。ところが、野木さんは昔から酒を飲まないことを知っていましたが、河津さんも酒を飲みませんでした。石川さんもほんの付き合い程度しか酒を飲まないと聞いて大ショック。大酒飲みの私としては、極めてまじめに企画から、執筆まで真剣に取り組んだ本です。出版後にA新聞社の有名軍事編集委員から電話を頂き、よく書けているとお褒めの言葉を頂きました。4人が大酒のみだったら、どんな本が出来たのでしょうか。 |
| 「日本の最も危険な日」 神浦元彰著 青春出版社 絶版 発行1978年6月 22年前の本です。「神浦さん、将来、大物になる人は20代で本を出しています。書いてみませんか」と、私が29歳の春に青春出版社編集部の行本さん(当時、現在は文化創作出版社)に言われ、中高生を読者対象にして、わかりやすく軍事常識の解説書を書いたのがこれ。日本や日本周辺で考えられる軍事問題を99項目とりあげて解説をしました。たとえば、「なぜ中国は台湾を攻めないのか」「小さな地域紛争(人種、宗教、国境など)から、人類を滅ぼす全面核戦争までの戦争分類法」「米ソ、戦略核兵器の種類と核戦略」「北海道脅威論のいい加減さ」「開発中の精密誘導兵器の恐怖」などなど、いろいろな項目で書きました。たしか30歳の7月の誕生日にぎりぎり間に合ったと記憶しています。この本を出したのを機会に、テレビなどマスコミに軍事問題で出るようになりました。そのころ週刊ポストで最も若い記者だった二木啓孝氏(現、日刊ゲンダイの編集部長)と、この本が縁で知り合い、同じ年ということで仲良くなり今も付き合っています。私の肩書きの「軍事ジャーナリスト」というのも、二木氏が20代で軍事評論家はないだろうと命名しました。この本で私の本格的な軍事人生(取材・研究・発表)が始まったようなものです。それが今、私の書斎の本箱を見たら、なんと1冊もないんです。びっくりしました。私と同じ頃に青春出版社から「天中殺」の本が出て、歴史的なほど爆発的に売れました。そして日本中で占いブームが起きたときは驚きました。まだ藤本義一氏が日本テレビで11PMの司会をやていた頃の話です。その11PMにも何度か出演させて頂きました。 |




