孫子の兵法 敵兵力の十倍あれば包囲せよ

 チェチェンの首都グロズヌイを包囲したロシア軍だが、なぜ総攻撃を仕掛けないのか。単に欧米の圧力に屈して総攻撃を行なわないのか。いや、実は孫子の昔から敵を包囲するする戦法は、こちらが優勢な場合には最も有効な手段として論じられている。勝てるとわかった戦闘なら、なにもこちらにも被害がでるし、敵の恨みを残すような戦闘は避けるべきなのである。

 孫子の兵法の中に、「十なれば即ちこれを囲み、五なれば即ちこれを攻め、倍なれば即ちこれを分かち、敵すれば即ちよく闘い、少なければ即ちこれを逃れ、しかざれば即ちこれを避く。故に小敵の堅は大敵の檎なり」というのがある。
 敵の十倍の兵力があれば敵を包囲する。五倍であれば攻撃し、2倍であれば敵を分断して戦う。同等の兵力なら最善を尽くして戦い、こちらの兵力が少ないなら引き上げ、敵の兵力が大きい場合は隠れる。兵力が少ないのに強気なのは敵の餌食になるという意味である。
 包囲をしたのち、敵の退路を1ヶ所開けるとおくいう方法も、敵に心理的な圧迫を加えながら、戦力を弱体化する戦術として有効である。

 別の言葉に、「攻者3倍の原則」というのがある。攻める場合には、敵の3倍の兵力が必要という意味である。逆の言い方をすれば、敵の三分の1の兵力でも守りを固めれば、攻める敵と五分五分の戦いができるという意味である。
 またランチェスターの法則も、彼我の兵力から戦力を比較するという理論もある。これは別の機会に説明することとしよう。
 
 今回は孫子が説いた「包囲戦」の有効性を書いた。包囲戦の場合に気をつけるのは、味方の構えを厳重にして敵を逃さないことと、敵の援軍が来襲してこないか警戒を厳重にすること。その上で城内の生活の基盤にうなる水や電気といったライフラインを徐々に絞ること。一気にライフラインを絞れば、城内の敵が元気なうちに絶望感や怒りで、決死の覚悟の城外に突撃攻撃に出てきて、不要な戦闘で味方を失うことになるからだ。
 
 旧軍で陸士、陸大を卒業したひとが、満州で敵に遭遇した場合、「とにかく高いところに兵を動かし、味方の兵力を最大限に集めてから本格的な攻撃を始めた」とよく話す人がいた。戦争の基本原則とはそのようなものだろう。
 高ければよく見渡せ、彼我の情報が集まりやすい。兵力が多ければ、それだけ有利に戦闘がしやすくなる。ゴラン高原の戦場を取材したとき、戦車や航空機の戦闘でも、わずかな高台を求めて激戦が何度も戦われていた。戦争の原則はいつの時代にも普遍なのである。特に航空機が発達し、電気などのライフラインが生活に重要さを増せば、包囲戦の有効性は高まってきている。


  写真は装甲車で機関砲の射撃を行なうロシア軍