| 東京都知事選に米軍・横田基地の返還を,選挙公約に掲げて当選した石原慎太郎知事だが、一般の見方では「地方自治体の首長」が米軍基地の返還を公約にして、国の政策に干渉するとはおくがましい。それも国家の安全に関係の深い日米安保の根幹に関する部分でなにごとか。石原慎太郎も選挙目当てとはいえ墓穴を掘ったもんだ。と、考える人が多いだろう。 しかし私はこの選挙公約を初めて聞いたとき、「うむ、石原慎太郎!思ったより凄いやつ。国取り合戦に、その手を使ってきたか」と思わず感心をした。 実はきちんとした軍事知識と、確かな情勢分析力があれば、横田基地が間もなく日本に返還される可能性が高いことがわかる。もし横田基地が返還されれば、その他の情勢の変化は関係なく、石原慎太郎知事の功績として高く評価されることになる。「米軍基地を返還できる男なら、東京都知事から再び国政で働いてもらいたい」と,考える国民は多くなるはずだ。すなわち石原新党の国取り合戦が始まるわけである。国民の圧倒的な支持を得られれば、石原新党の国取りも夢ではない。石原慎太郎はその出発点に、米軍・横田基地の日本返還を持ち出してきた。 さて、それでは石原マジックの仕掛けを説明しよう。まず横田が返還されるキーワードは3つある。ひとつは北朝鮮情勢である。北朝鮮の命運はすでにアメリカに握られている。これは説明が面倒で長くなるから、私の著書「北朝鮮 最終戦争 100の極秘情報」〔二見文庫〕を読めばわかる。一冊495円で安いから買いなさい。米国は北朝鮮の終末をいつにセットするか、すでに米国の国策で決定できるほど北朝鮮を追い詰めている。〔中国が台湾カードをチラチラさせれば、アメリカは北朝鮮カードを切ることになる〕 ふたつめのキーワードは米空軍のC−17輸送機の新配備である。このC−17輸送機はアメリカ軍の輸送システムを根本から変革させるからだ。 C−17の新配備で現在のような戦略空輸と戦術空輸の区別がなくなる。現在は米本土やハワイの基地からの空輸は、まずC−5輸送機などの大型機で横田などに運んで来る。これが戦略空輸である。次に横田から三沢基地などへは,荷物を移し替えた小型のC−130輸送機〔プロペラ〕が運ぶ。これが戦術輸送である。ちょうど日本の運送会社が,荷物を東京から福岡まで大型のトラックで運び、福岡から大宰府までは中型のトラックで運ぶ、大宰府の商店や個人宅には小型トラックや軽トラを使って荷物を運搬と同じだ。それも当然である。日本の宅配システムは、米軍の物資輸送システムを参考に導入されているからだ。 ![]() ところがC−17は画期的なことをやってくれた。紛れもなく大型輸送機なのに、離発着の滑走路が短くてすむのだ。エンジンの排気を工夫して、特別の大揚力が生まれる仕組みを取り入れた。さらに滑走路が舗装されていなくても離発着が可能ときた。少しばかり平らなところがあれば、C−17は降りてくるし、離陸もできるのだ。その上、航続距離はC−5の1.5倍もあるから、アメリカ本土から発進しても、地球の裏側まで余裕で飛んでいく空輸能力がある。すなわち、いちいちアメリカ本土から横田に運んできて、荷物を小型機に移し替えなくても、アメリカから直接に三沢や岩国に大量の空輸が可能なのである。これで米空軍は時間と人手を大きく削減できる。だから戦略空輸の拠点としての横田基地は必要なくなるのだ。 三番目のキーワードは携帯SAMの高性能化と普及である。ロシア軍のアフガン侵攻を携帯SAMのステンガーが止めを刺したように、市街地にしのび込んだテロリストが、次々と携帯SAMを発射して離発着の敵の軍用機を撃墜するだろう。これからの空軍機の最大の弱点は、長射程のSAMが並ぶ戦場や敵の防空基地ではなく、離発着を繰り返す味方の基地の周辺となりそうだ。密かに運ばれた携帯SAMで、テロリストが離陸した攻撃機を撃墜するからだ。それを防ぐには,基地の周囲(携帯SAMの射程範囲)に十分に警戒できる空間が必要である。今ではすっかり市街地に取り囲まれた横田基地には、携帯SAMの脅威を取り除く空間はない。それが可能な航空基地は、対中国を考えれば新千歳空港で、対朝鮮半島を考えれば新岩国基地(改装後)ぐらいなものである。新岩国基地は海を埋めて滑走路を伸ばし、基地の一角に空母が接岸できる岸壁を建設中である。新千歳基地には周囲を広大な土地があり、陸上自衛隊や航空自衛隊の精鋭部隊がガードを固める。 このように横田基地は、米軍にとっては間もなく無用の長物になる可能性が高いのだ。しかしである。しかし横田基地は都心に近いので、ヘリを使えば数十分で日本政府の中枢や、在日アメリカ大使館に急行できる位置にある。この政治的な位置を米軍は失いたくないだろう。横須賀に米海軍司令部が存在感を示すようにである。 そこで米軍は朝鮮半島が一息つけば、横田基地の返還と軍民共有に合意をしてくるはずだ。石原慎太郎はそこまで読んで、横田基地の返還と軍民共有の公約を東京に打ち込んで来た。 21世紀はリニアモーターカーが首都圏を走り回る時代だ。都心と横田をリニアモーターカーで結べば、今のヘリより早い十数分で結ばれる。航空機もエンジンの改良で、騒音対策も充実してきた。少なくても、環境への配慮などよりも、空輸性能の向上を目指してきた軍用の輸送機とは、騒音の規模もけた違いに小さくなる。さすがに石原知事は運輸大臣をやって、そのあたりの事情をご存知だったらしい。それとも軍事ブレーンにどなたか凄い人をお使いのようである。少なくとも、日本人の軍事問題ブレーンでないことは確かである。日本人にそこまで考える人がいれば、普天間基地の移転先にキャンプシュワブ沖を選ぶことはなかっただろう。 面白い人が都知事になったものだ。しかし道をはずすと大変危険な要素を抱え込んでいるのも事実である。 |