北朝鮮・金総書記の訪ロ・訪韓は延期された


米中軍用機接触事故で「漁夫の利」を得た北朝鮮


南北朝鮮の統一への動きは停止した!

 なぜ北朝鮮が漁夫の利を得たかは、最近の朝鮮半島情勢を正しく見ておく必要がある。すなわち、北朝鮮は冷戦の終結で、ソ連や中国からの援助が激減し、自力では体制を維持することが難しくなった。深刻な食糧難、燃料不足、社会インフラの機能低下があいついだ。そこで米・韓・日は援助というアメを見せながら、北朝鮮が国際社会に門を開く政策変更を求めた。実は、この解放・融和政策を陰で強く支援していたのが、北朝鮮の背後にいる隣国・中国であった。中国こそが北朝鮮・現体制の生存権を握っていたのだ。中国は開放・改革を嫌がる金正日を説得し、さらに南北対話を促進するように要求していた。この中国の狙いは、朝鮮半島で南北が穏やかな統一(おそらく連邦制)に成功すれば、新体制の中に生き残った北朝鮮グループ(金日成・金正日一派)を通じて、朝鮮半島で影響力を拡大できるという考えだった。朝鮮半島と陸続きの中国は、単に鉄道をつなぐだけでも、政治力や経済力を飛躍的に強めることが期待できた。これが中国伝統の「併呑政策」である。すなわち昔のベトナムのように、ゆっくりと朝鮮半島を呑み込んで併合してしまうのである。

 統一後、一時的に韓国の米軍が残留しても、やがて中国の力が米軍基地の周囲を包みはじめると、米軍は朝鮮半島から撤退する以外に方法はない。

 日本も、目の前に巨大な中国に支配された朝鮮半島が出現すると、安全保障政策を根本的に見直す必要が生じてくる。すなわちアメリカ側に立って、徹底的に中国と対峙するか、あるいは中国との関係を重視して、アメリカとの軍事関係を修正するかのふたつである。ただし今それを予測することはできない。そのときのアメリカと中国の関係が予測できないし、アメリカ自身もどのように変化しているか予測できないからだ。

 そのことに気がついたのがブッシュ新政権の安全保障政策を進めるグループである。このまま朝鮮半島で穏やかな南北統一が進めば、それは朝鮮半島で中国が力を拡大し、アメリカの力が衰退(後退)するだけと解釈した。だからクリントン政権の北朝鮮政策は生ぬるいと厳しく批判した。

 ブッシュ政権が求める南北統一は、東西ドイツのような激しい統一である。すなわち韓国による北朝鮮の統合である。統一後に生まれる新政権の中枢には、北朝鮮の政治家や軍人を排除して、あくまでアメリカの影響が強い韓国勢によって、新たな朝鮮半島全域を支配するという構図である。これならアメリカは朝鮮半島に出ようとする中国を押さえられるし、極東ロシアに対しても朝鮮半島から強い立場が確保できる。ちょうど日本が朝鮮半島を併合したと同じ理由である。

 ブッシュ政権の朝鮮政策を行うためには、北朝鮮の崩壊という荒業が絶対に必要である。ベルリンの壁が崩れると、東ドイツの人が西ドイツに洪水のように流れて出したように、北朝鮮の人がより良い生活を求めて、洪水のごとく韓国に流れてくる必要がある。それに反米的な政策をとり続けた北朝鮮の政治家や軍人を罰する必要があった。ブッシュ政権が北朝鮮に厳しい対応をとるのはこのためである。当然ながら、北朝鮮と中国はブッシュ政権のこの朝鮮半島戦略に強く反発した。

 金正日総書記は、統一後も自らの勢力が政治舞台から消去されることを防ぐために、各国と国交を結び存在感を保持(誇示)しょうと必死だった。また国が朽ち果てて、韓国に下ったという印象を払拭するために、とりあえずロシアなどからの緊急援助がぜひとも必要だった。

 それらが米中軍機接触で一気に米中関係が変化した。極めて強い米中軍事対立(あるいは不信)を生んでしまった。中国はブッシュ政権の朝鮮半島戦略を見抜き、北朝鮮の現体制を崩壊させないように徹底的に援助するだろう。まさに北朝鮮は米中の新たな冷戦開始によって、現体制の延命が可能になったのである。金正日総書記が鼻歌を歌いたくなるような状況が生まれてきたのだ。

 これをブッシュ戦略の失敗と見るか、あるいは中国の朝鮮半島政策の失敗と見るか、どう判断するかはこれからの歴史が決めることだ。ただ沖縄の人にとっては、朝鮮半島が統一されないかぎり、米軍(特に海兵隊)が沖縄から撤退することは難しくなることだけは確かだ。
 
 まさに金正日総書記が、ロシア訪問を延期し、韓国訪問を延期したのも、米中軍用機接触事故が、今後、米中でどう扱われか注視してるからである。中国が北朝鮮の現体制を維持してくれるのなら、何も金正日が進んで南北を統一する必要がないからだ。  (2001年4月13日)