スペイン・セルビアでの「テロリスト逮捕」に学ぶ

テロには市民の協力が絶対に必要


ゲリラは山に籠もるといういい加減さは問題

 今月16日午後6時40分頃、スペイン南部の都市セルビアで、空軍大佐(新聞では陸軍とあるが空軍が正しい)の軍医が、市街地にある診療所でテロリストの9ミリ拳銃で射殺された。犯人は「バスク祖国と自由」(通称ETA )であることは容易に想像できた。先月もスペインでは、検事長が自宅でETAと思われるテロリストに射殺されたばかりである。

 今回の事件では、犯人は現場から逃走中に警官隊に逮捕された。その時の状況をスペインのテレビ局(TVE)が報道した内容から紹介しよう。(衛星テレビ 「世界のニュース」から) 

 まず事件の一報は、警察に連絡されるとともに、地元のラジオ局が事件の現場や逃走犯の情報を市民に速報で伝えた。これを聞いた市民たちは、現場付近から逃げてくる犯人の姿を追った。その一方で警察は直ちに市の全周に警戒線を引いて、市内から郊外に逃走しょうとする犯人を封じ込める作戦をとった。

 犯人を目撃したタクシーの運転手は、ラジオの放送を聞くやお客を降ろし、事件現場に向かって犯人を目撃したという。またある商店主はラジオを聞いて店の前の路上にでた。そので犯人の姿を目撃した。市民の誰もが現場から逃げてくる犯人を捜そうとした。もちろん誰も拳銃などの武器は持っていないし、特別に警察に頼まれたわけではなかった。ただテロリストの横行に腹を立てていただけのことである。そこを犯人たちが駆け抜けていった。その情報は直ちにタクシー無線や携帯電話で、地元の警察に通報されたそうだ。その市民情報で対テロの訓練を受けた警察特殊部隊も追跡に加わった。市民の目撃情報は、逃走中に次々とラジオでも報じられた。

 こうして空軍大佐を射殺した犯人は、事件後の数時間のちに逮捕されたのである。このようにテロリストを追跡するには、市民を見方にできると格段の効果を上げることができる。逆に市民の協力が得られなかったり、市民が敵にまわるとテロリストの追跡は難しい。それだけに警察は普段から市民に信頼されなくてはいけないのだ。

 セビリアでは市民、ラジオ局、警察、対テロ特殊部隊のコンビが、うまく連携したように感じるが、ここには対テロリスト作戦の基本原則が生かされている。前にも話したことがあるが、ゲリラ戦の天才と言われるベトナム軍も、対ゲリラ戦では最初に大勢力で敵勢力(テロリスト)を包囲して閉じこめる。その枠の中に敵情を探る偵察員数名を投入するのだ。その偵察員の情報に基づいて、敵勢力を殲滅するための要員を送り込むのである。もし戦場が山間部(ジャングルや)の場合は、攻撃要員の代わりにその場所に砲弾を撃ち込むこともある。この原則と同じことが偶然にもセビリアでも起こったのだ。

 ところで自衛隊の対テロの訓練に、ゲリラが山に籠もったと想定した訓練をやっているが、ゲリラが山に籠もってくれれば儲けもんである。人のいない山ならば、ゆっくりと掃討作戦ができるからだ。しかし最近のゲリラは山間地を移動地として使っても、隠れるのは市街地を使うのではないだろうか。そのほうが目立たないし、テロ活動がしやすいからだ。自衛隊は演習場の制約から、訓練がしやすい場所での作戦を想定するが、現状をよく見ておかないと実動で使い物にならない訓練を積み重ねることになる。その最たる実例は、ソ連軍が北海道に上陸してくるという想定であった。それも自衛隊側が撃破しやすいように、ソ連軍侵攻部隊は4〜5師団というように、まさに自分たちにとって都合のいい想定であった。そんな馬鹿馬鹿しいことでも、だれも文句を言わなかったから不思議でならない。活力を失った大きな組織や、競争のない硬直した人事が恒常化すると、だれが見てもおかしいことが堂々とまかり通ってしまう。