4月29日、30日に海上保安庁の「観閲式及び総合訓練」が公開された。当日は天気に恵まれ、多くの招待客の前で、各種の訓練が展示された。訓練は船上火災の消火訓練、海面に流出した油の拡散防止訓練、遭難者の救助訓練、それに不審船追跡捕捉訓練である。またロシアから国境警備庁のユジノ・サハリンスク警備艇も、今年の観閲式のパレードに参加していた。
当J−rcomでは、特に今回は不審船追跡訓練の写真を掲載して、その簡単な説明を行ないます。また気になった問題点なども述べて、皆さんと一緒に考えたいと思います。
上の写真は船体横にドクロのマークをつけた不審船を、海上保安庁のヘリと高速巡視艇が追跡を開始したところです。これから不審船が発砲をしたという想定で、巡視船の機関砲と機銃の威嚇射撃を実施します。
20ミリ多連装機銃による威嚇射撃を行なう巡視艇、機銃の発射速度が高いので、この20ミリ機銃の一撃でも不審船に与えるダメージは大きい。海面がうねりで揺れ、不審船も追跡船も高速を出しているので、弾道は大きく振れて、精度の高い射撃は無理である。「やれ、スクリューだけを撃て」とか、「相手の航行能力を奪う射撃をしろ」というのは机上の空論である。相手が銃で抵抗すれば、もし空や海面を撃たないのなら、不審船の操舵室に向かって射撃する。この機銃の一連射(10〜15発程度)しか方法はない。もし、その銃撃で相手に死者がでても、射撃した海上保安官に過失はない。それより大事なのは、「相手の航行能力だけを奪う射撃」などという現実を知らない議論はやめることだ。
不審船の追跡には、小型で小回りがきいて、海上保安官が各種の銃で武装し、相手の船に乗り移って制圧する小型の高速巡視艇。それを近くから援護できる機銃を装備した中型の巡視船、さらに全体を支援(援護)できる35ミリ機関砲を搭載した大型巡視船、さらに上空から監視や海に落水した者を救助できるヘリというように、各種の艦船や航空機の特徴を結びつけた連携で作戦を行なう必要がある。海自の護衛艦のような大型の1隻で、すべての任務をまかなうのは無理である。なお、不審船の追跡とその制圧行動は、あくまで警察行動が基本にあって、護衛艦が対応するような軍事行動ではない。だから相手に対して、最初から圧倒的に優勢な戦力で対応することはできない。その点を混同してはいけない。
ヘリから着色剤を不審船に投下する。赤や黄色の着色剤によってマーキングされた不審船は、たとえ追跡を振り切っても、港に帰ってくれば逮捕されることになる。ここで気になったのだが、昨年に起きた日本海を逃走した北朝鮮の不審船は、当然ながら携帯式の対戦車ロケット砲(RPG7など)や、携帯SAM(対空ミサイル)を搭載していると想定される。そのような武装不審船には、ヘリが上空に接近して着色剤を投下するようなことはできない。今回の訓練は根室沖の周辺海域などで、暴力団がらみの高速密漁船が出没したり、麻薬の海上取引などを想定した訓練と考えたほうがよい。だから不審船の武装は、拳銃を所持しているくらいの想定である。今回のは北朝鮮の武装工作船を想定した訓練ではない。あくまで海上における警察行動の範囲内である。そのあたりの任務分担は、これから海上自衛対に新設される特殊部隊と、海上保安庁の間で調整が行なわれるだろう。海保と海自が対処する不審船の想定は、互いにかなりかけ離れたもので、装備する武器やとる戦術も大差がある。
巡視艇による機銃による威嚇射撃。相手が自決する意志がなければ、この段階で停船して降伏するであろう。それでも相手が逃走を続けるなら、船首あたりに1連射撃ってみると、相手の抵抗心を奪う効果がある。その際に、船が揺れて相手の操舵室に銃弾が命中しても、それは相手の運が悪かったのである。それによって射撃を行なった海上保安官が責任を問われることない。ただし機関室がある船尾を撃ってしまうと、浸水が激しく沈没する可能性があるので、あえて船尾を狙って撃つことは止めたほうがよい。多連装の機銃なので、相手のマストを狙って撃つのも効果がある。相手の船の乗組員の頭上から、マストやレーダーの破片が降ってくれば、抵抗する者の肝を潰す効果が期待できる。

巡視船の機関砲や機銃での威嚇射撃が効果を上げ、不審船が速度を落とせば、小型の高速巡視艇が前面に出てくる。この巡視艇には不審船に乗り移って制圧を行なう特別任務の隊員が乗り込んでいる。そのために自動小銃や拳銃といった銃器のほかに、閃光手榴弾、防弾チョッキ、救命胴衣、防弾ヘルメットなどを装備して、かなりの重量物を身につけている。また相手の船に接近して、停船命令を警告する音響信号弾を投げつけるのも任務だ。音響信号弾は投げると空中で破裂して、相手に大音響で威嚇を行なう効果がある。まだ抵抗を完全に止めていない不審船に対して、制圧隊員は実力行使を行なうことになる。しかし巡視艇も相手の船も波をかぶって濡れており、デッキは非常に滑りやすくなっている。さらに高速による船の揺れである。そのような悪い環境での制圧なので、隊員の練度はもちろんだが、それを支援する援護部隊の役割も重要である。巡視艇が不審船に接近すると、隊員は船首に出て相手が降伏して停船するかの意思を確認した。しかし相手が停船命令に従わないので、次は強制的に相手の船に乗り移って制圧することになる。
不審船から拳銃による反撃を受けて、船首の隊員は操舵室の後方の梯子から上部デッキに登り、自動小銃による応戦射撃に移る。この日の訓練では64式の自動小銃が使われたが、これからは89式の5.56ミリ自動小銃に替わるだろう。この場合も、地上の警察官のように犯人の足を撃てとか、肩を撃って抵抗力を奪えなんてことはできない。射撃の距離は相手の拳銃弾が威力を失う100メートルぐらいが適当である。その距離で相手の操舵室に、繰船ができないくらい撃ち込めば効果がある。機銃では威力がありすぎて操舵室に弾着を集中できないが、89式自動小銃ぐらいの威力ならちょうどいい。100メールぐらい飛ぶガス銃で、催涙ガスや嘔吐ガス弾を撃ち込んでもよい。しかしこの日の訓練では、ガス銃を使っての訓練は公開されなかった。ただしガス弾と言っても、煙がモウモウとたち込めるタイプではなく、弾が破裂して粉末が飛び散るタイプでなければ効果はない。
相手は銃撃に耐えきれず、ついに降伏の意志を示し、射撃を中止し船速を落とし始めた。いよいよ相手の船に乗り移っての制圧を行なう場面になった。しかし、いったんは降伏した相手も、いつ再び応戦を始めるかわからない。上部デッキで自動小銃を構える隊員は相手の動きに注視して、相手が少しでも不審な動きをとれれば直ちに射撃を開始する。この日の場合は、不審船に乗り移る隊員は5名であった。銃弾を避けて、操舵室の陰に身を隠しながら巡視艇は不審船に接近していく。このような場合、乗り移る隊員は空挺部隊用の89式自動小銃では、銃が大きく狭い船内では使いにくい。当然ながらMP−5と拳銃で武装をする。今回の訓練では、どこからかクレームがついてMP−5の公開は中止したそうだ。これはまったく馬鹿げている。このような公開訓練の場で、MP−5を使用することは、同様な事件を抑止する面からも必要なことであった。どこのどんな人がクレームをつけたか知らないが、対テロ対策という常識がない人が、せっかくテロ事件を抑制するという機会を失ってしまった。テレビや新聞のカメラマンがそろった場所で、海上保安庁の特別任務部隊がMP−5の訓練を公開すれば、その抑止効果は大きなものがあったはずである。
最後に制圧任務の隊員が不審船に乗り移り、相手の武器を奪い、その身柄を拘束したところで訓練終了である。このような公開訓練の場合、多くの見学者は制圧隊員の動きに注目しているだろう。しかし専門家は制圧隊員の動きにはあまり注目してはいない。どこを見てるかといえば、制圧隊員を援護している周囲の艦船や隊員の動きを見ているのだ。相手の船に乗り移った5人は、あまりに弱体な戦力である。そのまま人質に取られる可能性もある。不審船船内に5人も隠れていれば、乗り込んだ5人を捕獲するのはわけない。そのために5人の隊員が乗り移る場合は、その弱小な戦力を補うために、周囲の巡視船は不審船にできるだけ接近し、デッキに89式自動小銃もった隊員の銃口を並べておく必要がある。右に写っている巡視艇の支援隊員は、銃を胸に抱えてすぐ射撃ができる姿勢になっていない。制圧隊員が相手の船に乗り移って行動している場合は、完全に制圧が終わるまで、支援隊員は銃を構えて直ちに援護射撃ができるように照準も合わせておく必要がある。
まあいろいろ言いましたが、不審船に乗り移った制圧隊員の動きは良かったと思う。過去、海上保安庁に密かに機動隊が創設されたとき、その最初の取材を私が行なった記憶がある。たしかサンデー毎日のグラビアに写真をルポを掲載した。その時(20年ぐらい前)は、巡視船の船底に狭い部屋に、柔道畳をひきつめて柔道の練習を行なっていた。あのころを思えば、海上保安庁も大きく進歩したものである。こんどは不審船の船内捜索の訓練をぜひ拝見したいと思った。ところであの部隊の正式名称はなに? 武装強制執行部隊とか特殊執行部隊なんて名前がついているのですかね。
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